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個人事業主や法人が事業用に購入した車を売却する機会は多いものです。
事業用車は、年々価値が減っていく減価償却の対象資産となります。そのため、年々分割で購入費用を計上していきます。
その減価償却が終わっていない段階で、事業用車を売却することはできるのでしょうか?
この記事では、減価償却中の車の売却が可能かどうか説明します。また、分かりやすい会計処理の仕方も説明するので参考にしてください。
減価償却とは?
まず、資産というのは年月の経過と共に価値が減っていくという考え方です。
減価償却費とは、資産購入費用を使用できる期間の中で、分けて経費計上するという会計処理のルールのことです。
減価償却資産というのは、一度に計上することができないので分けて計上しなければなりません。
例えば、240万円の車を購入したら、毎年40万円ずつを6年間に渡り、分割して経費計上することになります。
もし減価償却しないでそのまま経費として計上してしまうと、支出が利益を上回り赤字になってしまう可能性があります。
それまでは黒字だったのに、車購入費用を計上することで赤字に転じた場合、銀行からの融資が打ち切られるなどの経営上のリスクが生じる可能性があるでしょう。
また、減価償却できる資産には条件があり、業務使用していてかつ時間の経過と共に劣化する資産となります。
そのため、減価償却できる資産は車、機械装置、特許権などの権利も含まれます。逆に減価償却できない資産は、土地や骨董品などです。
耐用年数について
減価償却の対象となる資産には、「使用可能期間」というのが資産ごとに概ね決まっています。これが耐用年数のことです。
耐用年数は、国税庁で定められており、車の場合は「新車か中古車か」「普通車か軽自動車か」など車種によって違いがあります。
- 新車(普通車)の場合・・・6年
- 軽自動車の場合・・・4年
- 中古車の場合・・・新車登録年数からどのぐらい経過しているかによって耐用年数は異なる
減価償却資産の耐用年数は、資産の材質や用途などによって細かく決められています。詳しくは国税庁のホームページで確認できます。
減価償却の計算方法
減価償却費を計算するには「定額法」と「定率法」という2つの計算式があります。
定額法とは、毎年決まった金額を償却する方法です。耐用年数の1年目から最後の年まで同じ額を分割して償却するので、毎年の負担費用は同じです。
定率法とは、毎年一定の割合で償却していく計算方法になります。1年目は負担金額が大きいですが、その後は耐用年数の最後の年に向けて、年々負担額は少なくなっていくのが特徴です。
建物やソフトウェア、特許権などの形のない資産に関しては定額法を用いなければならないと決まっています。他の資産については、どちらの計算方法を選択しても良いことになっています。
減価償却の途中でも車の売却は可能
事業用に購入した車を減価償却している途中で、売却することは可能です。
購入金額を全て経費として計上しきれていなくても、法律的には問題ありません。ただし、車の売却金額を利益として計上するか、損失とするかなど会計処理の仕方が少し複雑になります。
間違えて計上しないように、事前に会計処理の仕方を把握しておくことが大事です。
減価償却途中の車売却時における会計処理の方法
減価償却中の事業用車を売却する際に、会計処理の方法として仕訳が異なるのは、個人事業主か法人かということです。
さらに、仕訳の方法として直接法にするのか、間接法にするのかでも違いがあります。
また、計上する際に税込みか、税抜きかによっても仕訳の方法が違います。
すなわち、個人事業主で「直接法で税込み」「直接法で税抜き」もしくは「間接法で税込み」「間接法で税抜き」の4つに分けられます。(法人でも同様に4つの仕訳法が存在することになります。)
ただし、どの仕訳方法を選ぶかは比較的自由です。事業の実態などに応じて、その都度やりやすい仕訳法を適宜選ぶというケースが多いでしょう。
減価償却費の仕訳には、直接法と間接法の2つの方法があります。
直接法とは、固定資産から減価償却費を直接減らしていく方法です。そのため、現在の固定資産の価値が分かりやすいというメリットがあります。
間接法とは、固定資産から減価償却費を差し引かないで、別に減価償却累計額という勘定項目を作って仕訳するという方法です。そのため、これまでの減価償却費の累計額が分かりやすいというメリットがあります。
車の売却をする時に仕訳をする際、税込みにするか、税抜きにするか、どちらかを選ぶことができます。
特別どちらにしなければならないという決まりはありません。ただし、業者によっては消費税を納付もしくは還付を受けることもあります。
そのため、税金を区別して計上したほうが便宜上会計処理しやすいという場合もあるでしょう。
車売却において税抜きで仕訳する場合は、車両運搬具として減価償却費を税抜きにし、売却額の消費税分は仮受消費税としてそれぞれ貸方に記載することになります。
リサイクル預託金とは、車を廃車にする際に出る廃棄物の処理や部品のリサイクルなどにかかる費用のことです。
法律で規定されているため、車の所有者が負担しなければなりません。
基本的に車を購入した際に支払い、廃車になるまで車ともに引き継がれていきます。
廃車にかかる費用は廃棄物の量や内容によって違うので、車種や車の大きさ、自動車メーカーによって差額が生じます。金額は、7,000円~50,000円ぐらいです。
リサイクル預託金の内訳は、廃棄物の処理とリサイクル料金を管理する団体の資産管理料に分けられます。
資産管理料は費用として計上しますが、他の費用は資産として計上されます。
車の売却により、買い手からリサイクル預託金を返金してもらうことになるでしょう。ただし、非課税の取り引きなので売却額には含まずに、預託金という勘定科目で別途仕訳することになります。
個人事業主が車を売却する場合は、個人から法人である車買取業者へ資産を譲渡したことになります。
そのため、譲渡所得として計上し「事業主借」や「事業主貸」という勘定科目で仕訳します。
以下の状況を例として、直接法の仕訳方を見ていきましょう。
- 消費税は10%
- 車両購入価格は180万円
- リサイクル預託金は18,000円
- 普通車に4年乗っている(耐用年数は6年)
- リサイクル預託金を含む500,000円で売却
- 仕訳方法は直接法
減価償却費の求め方は、以下になります。
毎年30万円ずつの計上になることが分かりました。
続いて、貸方の「車両運搬具」の金額を求めていきます。
貸方は以下の内容になります。
「車両運搬具」600,000円
「預託金」18,000円(リサイクル預託金)
「合計」618,000円
借方は以下の内容になります。
「現預金」500,000円(売却代金)
「事業主貸」118,000円(車両運搬具60万円から売却代金50万円を差し引き、預託金を18,000円を加算した売却損)
「合計」618,000円
このように仕訳ます。
税抜きの場合は、仮受消費税を記載するため項目が増えます。
貸方は以下の内容になります。
「車両運搬具」540,000円(車両運搬具60万円から消費税10%を差し引いた金額)
「仮受消費税」50,000円(売却代金50万円の消費税分)
「預託金」18,000円(リサイクル預託金)
「合計」608,000円
借方は以下の内容になります。
「現預金」500,000円(売却代金)
「事業主貸」108,000円(税抜きの車両運搬具54万円から税抜きの売却代金45万円を差し引き、預託金を18,000円を加算した売却損)
「合計」608,000円
このように仕訳ます。
個人事業主の間接法による仕訳では「減価償却累計」が勘定科目に加わるので注意しましょう。
以下の状況を例として、間接法の仕訳方を見ていきましょう。
- 消費税は10%
- 車両購入価格は180万円
- リサイクル預託金は18,000円
- 普通車に4年乗っている(耐用年数は6年)
- リサイクル預託金を含む500,000円で売却
減価償却累計の求め方は以下になります。
貸方は以下の内容になります。
「車両運搬具」180万円(車両購入価格)
「預託金」18,000円(リサイクル預託金)
「合計」1,818,000円
借方は以下の内容になります。
「現預金」500,000円(売却代金)
「減価償却累計」120万円
「事業主貸」118,000円(車両運搬具60万円から売却代金50万円を差し引き、預託金を18,000円を加算した売却損)
「合計」1,818,000円
このように仕訳ます。
税抜きの場合は、仮受消費税を記載するため項目が増えます。
貸方は以下の内容になります。
「車両運搬具」162万円(車両購入価格180万円から消費税10%を差し引いた金額)
「仮受消費税」50,000円(売却代金50万円の消費税分)
「預託金」18,000円(リサイクル預託金)
「合計」1,688,000円
借方は以下の内容になります。
「現預金」500,000円(売却代金)
「減価償却累計」108万円(減価償却累計120万円から消費税10%分を引いた金額)
「事業主貸」118,000円(税抜きの車両運搬具54万円から税抜きの売却代金45万円を差し引き、預託金を18,000円を加算した売却損)
「合計」1,688,000円
このように仕訳ます。
法人が事業用車を売却する場合、計算方法は個人事業主とあまり変わりませんが、勘定項目が異なるので注意が必要です。
個人事業主で「事業主貸」としていた項目が「車両売却損」となります。
以下の状況を例として、直接法の仕訳方を見ていきましょう。
- 消費税は10%
- 車両購入価格は180万円
- リサイクル預託金は18,000円
- 普通車に4年乗っている(耐用年数は6年)
- リサイクル預託金を含む500,000円で売却
貸方は以下の内容になります。
「車両運搬具」600,000円(車両購入価格-4年間の減価償却費)
「預託金」18,000円(リサイクル預託金)
「合計」618,000円
借方は以下の内容になります。
「現預金」500,000円(売却代金)
「車両売却損」118,000円(車両運搬具60万円から売却代金50万円を差し引き、預託金を18,000円を加算した売却損)
「合計」618,000円
このように仕訳ます。
税抜きの場合は、仮受消費税を記載するため項目が増えます。
貸方は以下の内容になります。
「車両運搬具」540,000円(車両運搬具の60万円から消費税10%を差し引いた金額)
「仮受消費税」50,000円(売却代金50万円の消費税分)
「預託金」18,000円(リサイクル預託金)
「合計」608,000円
借方は以下の内容になります。
「現預金」500,000円(売却代金)
「車両売却損」108,000円(税抜きの車両運搬具54万円から税抜きの売却代金45万円を差し引き、預託金を18,000円を加算した売却損)
合計608,000円
このように仕訳ます。
以下の状況を例として、法人の間接法での仕訳方を見ていきましょう。
- 消費税は10%
- 車両購入価格は180万円
- リサイクル預託金は18,000円
- 普通車に4年乗っている(耐用年数は6年)
- リサイクル預託金を含む500,000円で売却
貸方は以下の内容になります。
「車両運搬具」180万円(車両購入価格)
「預託金」18,000円(リサイクル預託金)
「合計」1,818,000円
借方は以下の内容になります。
「現預金」500,000円(売却代金)
「減価償却累計」120万円(車両購入費÷車の耐用年数×使用した期間)
「車両売却損」118,000円(車両運搬具60万円から売却代金50万円を差し引き、預託金を18,000円を加算した売却損)
「合計」1,818,000円
このように仕訳ます。
税抜きの場合は、仮受消費税を記載するため項目が増えます。
貸方は以下の内容になります。
「車両運搬具」162万円(車両運搬具180万円から消費税10%を差し引いた金額)
「仮受消費税」50,000円(売却代金50万円の消費税分)
「預託金」18,000円(リサイクル預託金)
「合計」1,688,000円
借方は以下の内容になります。
「現預金」500,000円(売却代金)
「減価償却累計」108万円(120万円から消費税10%分を引いた金額)
「車両売却損」108,000円(税抜きの車両運搬具54万円から税抜きの売却代金45万円を差し引き、預託金を18,000円を加算した売却損)
「合計」1,688,000円
このように仕訳ます。
車の売却による売却益と売却損の仕訳
事業用の車を売却した際に、購入額よりも売却額が高い場合は「売却益」が生じます。逆に売却額が購入額を下回ると「売却損」が生じます。
売却益と売却損の仕訳は、個人事業主と法人では勘定科目が異なるので注意しましょう。
売却益は「固定資産売却益」、売却損は「固定資産売却損」という項目で仕訳します。
売却益は事業者から借りたお金という意味で「事業主借」、売却損は事業主に貸したお金という意味で「事業主貸」という項目で仕訳します。
個人事業主が法人のように固定資産売却益や固定資産売却損という項目を使わないのは、車を売却した損益は譲渡所得になるため、事業所得などとは区別されるからです。
売却益が出た場合の課税額
車を売却して利益を得た場合、つまり売却益が生じると税金が課されます。
しかし、その税金の計算方法は法人と個人事業主の場合で大きく違うので、間違えないようにしましょう。
個人事業主の場合は、業務用の車であっても買い物など業務外の日常生活で使うことも多いため、業務とプライベートの線引きが難しいです。
そのため、売却益が発生したとしても事業により得た利益としては計上することができません。一般の方が車を売却して得た利益と同様に「譲渡所得」という扱いになります。
譲渡所得の場合、所得税が課税の対象ですが、最大で500,000円までの特別控除が受けられることになっています。さらに、車の所有期間が5年以内か、5年を超過しているのかによっても譲渡所得の計算式が異なります。
譲渡所得の求め方は、売却代金から帳簿価額と特別控除500,000円を引いた金額です。
※帳簿価額とは、売却時の車の価値のことです。
譲渡所得の求め方は、所有期間5年以内の譲渡所得の半分になります。
例えば、240万円の普通車を3年乗って180万円で売却したとします。
まずは減価償却累計の金額を出しましょう。
次に帳簿価額を出していきます。
そして譲渡所得を出します。
計算をしていくと気付くと思いますが、売却代金が特別控除分の50万円を超えなければ、所得税を課税されることはありません。
法人の場合、個人事業主と違って車の売却益は「特別利益」として計上され、他の利益と合算されます。売却損も「特別損失」として計上し、他の損失と合算されます。
利益が出ると法人税が課税されますが、会計上の利益に対して課税されるのではなく、法人所得に対しての課税となります。
法人所得というのは、法人が一定期間に得た所得であり、利益金から損失金を差し引いた金額のことです。単純な利益とは違うので間違えないようにしましょう。
算出された法人所得に対し、会社の規模などによって異なる税率に応じて法人税が課税されます。
計算や仕訳が難しい場合は専門家を頼ろう
事業用車を個人事業主や法人が購入し使用する際は、会計上、資産の使用可能期間に応じて購入額を分割し、減価償却費として毎年計上しなければなりません。
また車を売却するときも減価償却費を考慮しながら、直接法や間接法、税込みや税抜きなどの仕訳の種類を理解して会計処理を行うことになるでしょう。
中には複雑は計算になる場合もありますが、会社経営に関する重要な部分なのでミスは避けなければなりません。
仕訳や計算の方法が分からない場合は、税理士などに相談するなど専門家の力を借りることをおすすめします。